相続手続きで遺言書が大切な理由は?
「遺言書はとっても大切ですよ」。
こんな言葉をよく聞かれると思います。
でも、なぜ遺言書はそんなに大事なのでしょうか? そして、実際の手続きの中では、どんな使われ方をするのでしょうか?
ご家族がお亡くなりになると、さまざまな相続の手続きが発生することになります。
時系列でご説明しますと、まず7日以内に死亡届を提出して、その後に年金(遺族年金、未支給年金)、健康保険(後期高齢者医療、高額療養費)の手続きがあります。
ここまでは、「相続前」の手続きです。
そして、いよいよ「相続」の手続きになりますが、ここで遺言があるかどうかを確認することになります。
公正証書遺言があった場合はすぐに調べることができますが、自筆証書遺言の場合は有無を調べることが自体が大変です。
自宅の寝室や書斎などから、遺品として残されていたという例も少なくありません。
この場合は、いつ見つかるか分かりませんから、お亡くなりになって半年、1年経って発見されるということもあります。
いずれにしても、形式にかなった遺言が残されており、法律的な効力が認められる場合には、相続手続きはかなりスムーズに運ぶことは間違いありません。
遺言がなかった場合には、事情はまったく異なってきます。
この場合は、まず推定相続人の調査を行い、相続人を確定させる必要があります。
お子さんがいらっしゃらなかったりして、兄弟姉妹が相続人になられたり、ご家族が遠方にお住まいの場合には、この調査もかなり大変になってきます。
そして、相続財産の調査、確定を行う必要がありますが、遺言書がないとこれもかなり煩雑で複雑な作業となります。
世の中には、ご夫婦の通帳や印鑑、そして預貯金をご存じでない方は、たくさんいらっしゃいます。
夫婦とはいえ、各自の財産は固有のものと考えるなら、無理からぬことでもあります。
確かな遺言書があれば、主な預貯金の所在は把握できるものですが、遺言書がないことでまったく見当もつかないというケースもあります。
「相続放棄」や「限定承認」の手続きは、3か月以内に行わなければなりませんが、遺言書がないと相続人や相続財産の調査、確定でこの期間を過ぎてしまうこともあります。
また、預貯金の引き出しや不動産や自動車などの名義変更、各種の相続手続きには遺産分割協議書が不可欠ですが、確かな遺言書が残されていればこの手続きも相当に簡略になります。
ご家族、親戚どうしとはいえ、遺産分割協議書の手続きには思わぬ時間や労力を費やしてしまうケースも少なくありません。
最悪の場合、分割協議が折り合わないということもありますが、この場合は家庭裁判所の調停や審判が必要となります。
この手続きは弁護士に依頼した上で、数か月を要することになります。
この間、相続手続きや遺産の名義変更は一切できませんし、やりとりを重ねていると相続税の申告期限の10か月が到来してしまうこともあります。
相続人、関係者にとって、だれもが思い悩むような事態だといえるでしょう。
できることなら、大切なご家族のためにも、遺言書を残しておいていただきたいものです。